ニッケルめっきとは、耐食性、耐薬品性に優れ、硬さ、柔軟性など物理的性質も良好であり、変色しにくい、各種の素地に対して直接密着性の良いめっきが出来ます。 前処理としてニッケルストライクめっき(ウッド浴)という処理を用いて、難材である、ステンレスや銅(真鍮)、鋳物素材に対しても良好なめっき皮膜を析出することが可能です。
ニッケルめっきには、電気を使用して処理するものと電気を使わず化学的還元作用を利用して処理するものがあります。一般的にニッケルめっきと言われる場合は、電気を使用して処理する電解ニッケルめっきのことを指しています。
目次
ニッケルめっきは、通電によってニッケル金属の皮膜を析出させるめっきです。ニッケルは遷移金属のレアメタルの一つで、錆びにくい性質を持つ金属です。性質は鉄に近いのですが、空気中の湿気に対しては鉄よりも安定していることから、装飾、防食の両面に利用されています。とはいえ、表面は空気中でわずかに変色することもあるため、美観の付与と保持のためにニッケルめっきに加え装飾用クロムめっきを施すのが一般的です。
この記事では、ニッケルめっきの原理や特徴などを解説します。[1]
最初に、ニッケルめっきの原理について説明していきます。
ニッケルめっきを行う際は、ニッケルイオンを含んだめっき液に、金属ニッケルを陽極、被めっき物を陰極に設定して直流電流を通します。陽極ニッケルは溶解してニッケルイオンになり、陰極ではニッケルイオンが電子をもらって金属ニッケルの皮膜が形成されることにより析出されます。
金属としてのニッケルは色調や強度、強磁性などは鉄に似ていますが、鉄のように錆びることは比較的なく、高耐食性を持っています。そのことから、ニッケルめっきには次のような5つの特徴があります。
硬度 | 光沢:HV550程度 無光沢Hv150~250 |
---|---|
耐食性 | リンを含有させると向上する |
耐熱温度 | 400℃まで変色しない |
耐酸性 | 溶解する |
結晶構造 | 結晶質 |
導電性 | あり |
熱膨張 | 14~17μm/m℃ |
伸び | ワット(硫酸ニッケル)浴 → 10~35% スルファミン酸浴(塩化物含有) → 5〜28% |
磁性 | 強磁性 |
放熱性 | 黒無電解ニッケルめっきがよい |
摩擦係数 | 0.58 アームコ鉄球面(半径3.2mm)/平面,荷重2.7N,滑り速度0.05mm/s 出典:機械工学便覧 |
密着性 | 鉄系は良好、真鍮や銅やステンレスはニッケルストライクめっきが必要 アルミニウムは無電解ニッケルめっきが必要 |
溶接性 | 光沢ニッケルめっきでは不向きなので無電解ニッケルめっきに変更した方がよい |
内部応力 | ワット浴(硫酸ニッケル)は引張応力を持つ。 スルファミン酸浴(塩化物含有)は、引張から圧縮まで調整可能。 めっき厚を薄くすることが好ましい。 |
残留応力 | ワット(硫酸ニッケル)浴 → 12kg/mm2 スルファミン酸浴(塩化物含有) → 0.4~0.6kg/mm2 |
応力緩和 | 膜厚の薄膜化を検討する(応力はめっき膜厚が厚くなるほど大きくなる) |
熱膨張率 | (25℃) 13.4 µm/(m·K) |
半田濡れ性 | 半光沢ニッケルが良い |
電気抵抗 | -195℃: 0.55 100℃:10.3 体積抵抗(μΩcm) |
電気抵抗率 | (20℃)6.93(nΩ・m) |
透磁率 | 1.26×10−4 - 7.54×10−4 μ [H/m] |
熱伝導率 | 90.9W/(m・k) |
輻射率(放射率) | 0.25~0.85(λ=1.55μm) |
ヤング率 | 200GPa |
導電率 | 24.2(IACS%) |
水素脆性 | 発生する |
化学式 | Ni2 + 2e- → Ni |
レベリング | 光沢材を使用することで、小さな凸凹を埋め、表面を平滑化する |
接触抵抗 | 約8~9μΩ/cm(ワット浴) |
比重 | 8.90g/㎤ |
融点 | 1455℃ |
強度 | 皮膜強度は1038Hv。薬品に強い。色調も良く変色しにくい |
ニッケルめっきのメリットは、次の5つです。
無光沢ニッケルめっきは光沢剤や添加物が入っていないめっきです。
無光沢ニッケルめっきは、その名の通り光沢はありません。光沢剤などを使用していないため、レベリング性は低いですが、純ニッケルに近い特性を得ることが出来ます。また、応力緩和剤の硫黄を含まないため、電子部品に使用されることがあります。緻密な皮膜が得られますが、指紋がつきやすく、時間の経過とともに変色が起こります。
半光沢ニッケルめっきは、硫黄を含まないレベリング作用がある添加剤を使用します。
光沢ニッケルほどピカピカではありませんが、硫黄を含まないため、はんだ付け製品にも利用されています。また、光沢ニッケルめっきの下地として耐食性を向上させることができます。
光沢ニッケルめっきは、ピカピカで光沢も良く、硬くて変色しにくいなどの優れた機能を持っています。ただし、皮膜の硬度が高く、クラックなどの不良が発生しやすい点に注意が必要です。
また、サッカリンなどの硫黄系の物質が含まれているため、めっきの中に硫黄がごく少量ですが含まれてしまいます。そのため、硫黄が含まれていないものよりは腐食しやすいという性質があります。
ニッケルめっきの際のめっき浴は、ワット浴とステンレスへのめっき下地に使用するウッド浴があります。めっき浴によってめっきに違いが出るため、用途に応じて適切なめっき浴を行わなくてはなりません。
もっとも一般的なニッケルめっき浴です。
構成成分は、金属イオンの供給源となる硫酸ニッケル、陽極溶解の促進や液の導電性向上のための塩化ニッケル、高電流部分の焦げを防ぐホウ酸を主成分とする、もっとも実用的で有名なめっき浴です。ワット浴からの析出皮膜は素材との密着性がよく、半光沢で耐食性があるため下地めっきとして用いられることが多いです。鏡面光沢の皮膜を作成するために光沢剤を添加します。
強酸性で素材を活性化しながら行うめっき浴です。
ストライク浴とも呼ばれ、ニッケル金属イオンの供給源として塩化ニッケルを使用し、塩酸を添加し、浴を強酸性にしていることが大きな特徴の一つです。
被めっき物表面の酸化物を金属に還元しながらめっきするため、非常に密着性の良いめっきが可能となります。ステンレスなど表面が酸化膜で覆われている物質に対して非常に有効なめっきです。[3]
ニッケルめっきは機能性だけでなく、美観性も大きく向上します。ニッケルめっきは、次のような用途でよく使われています。
ニッケルめっきは強くて錆びにくいので、家庭用品・電化製品・OA機器・乗り物など、様々な場面で活躍しています。
ニッケルめっきは鋭い角部にはめっきが厚くつきバリが出やすくなります。隅部や複雑な形状には、めっきがつかないか、つきにくくなります。
そのため、角部にRをつけられるものは出来るだけ大きくとり、隅部(特に形状部ツバのついた軸の根元等)には、できれば逃げのあることが望ましいです。複雑な形状の場合には治具の製作が必要となります。
ニッケルめっきの種類、等級及び記号
素地金属 | めっき金属の種類 | 等級 | めっき 最小厚さμm |
記号 |
---|---|---|---|---|
鉄鋼 | 銅-ニッケルめっき | 1級 | 3 | Ep-Fe/Cu+Nib3又はEp-Fe/Cu+Nib[1] |
2級 | 5 | Ep-Fe/Cu+Nib5又はEp-Fe/Cu+Nib[2] | ||
3級 | 10 | Ep-Fe/Cu+Nib10又はEp-Fe/Cu+Nib[3] | ||
4級 | 15 | Ep-Fe/Cu+Nib15又はEp-Fe/Cu+Nib[4] | ||
5級 | 20 | Ep-Fe/Cu+Nib20又はEp-Fe/Cu+Nib[5] | ||
銅及び銅合金 | ニッケルめっき | 1級 | 3 | Ep-Cu/Ni3b又はEp-Cu/Nib[1] |
2級 | 5 | Ep-Cu/Ni5b又はEp-Cu/Nib[2] | ||
3級 | 10 | Ep-Cu/Ni10b又はEp-Cu/Nib[3] |
4010 ニッケルめっき | 1007 電気分解、電解 |
4018 装飾用クロムめっき | 113 陽極 |
1029 陰極 | 1065 レベリング、平滑化 |
4033 ストライクめっき、ストライク | 2022 光沢剤 |
8018 ピンホール | 3019 脱脂 |
3020 電解脱脂 | 1069 不動態 |
1015 還元 |
ニッケルめっき | Nickel plating |
---|---|
光沢ニッケルめっき | Glossy nickel plating |
半光沢ニッケルめっき | Semi-gloss nickel plating |
無光沢ニッケルめっき | Matte nickel plating |
装飾用クロムめっき | Decorative chrome plating |
脱脂 | Solvent degreasing |
電解脱脂 | Electrolytic degreasing |
レベリング | levelling |
ニッケルは耐食性に優れた金属なので、ニッケルめっきはあらゆる用途で利用されます。
銅材や真鍮、ステンレスであればダイレクトにめっきできるため、装飾用や防食用の下地めっきとしても多用されています。
また、無光沢・半光沢・光沢ニッケルの種類があり、光沢剤などの添加剤を選択することで、外観のバリエーションを広げることができます。用途によって求められることが変わるため、どのめっきが最適なのか正確に判断しなくてはなりません。
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脚注