ニッケルめっき

ニッケルめっきとは、耐食性、耐薬品性に優れ、硬さ、柔軟性など物理的性質も良好であり、変色しにくい、各種の素地に対して直接密着性の良いめっきが出来ます。 前処理としてニッケルストライクめっき(ウッド浴)という処理を用いて、難材である、ステンレス真鍮)、鋳物素材に対しても良好なめっき皮膜を析出することが可能です。

ニッケルめっきには、電気を使用して処理するものと電気を使わず化学的還元作用を利用して処理するものがあります。一般的にニッケルめっきと言われる場合は、電気を使用して処理する電解ニッケルめっきのことを指しています。

ニッケルめっきとは?

ニッケルめっきは、通電によってニッケル金属の皮膜を析出させるめっきです。ニッケルは遷移金属レアメタルの一つで、錆びにくい性質を持つ金属です。性質はに近いのですが、空気中の湿気に対してはよりも安定していることから、装飾、防食の両面に利用されています。とはいえ、表面は空気中でわずかに変色することもあるため、美観の付与と保持のためにニッケルめっきに加え装飾用クロムめっきを施すのが一般的です。

この記事では、ニッケルめっきの原理や特徴などを解説します。[1]

ニッケルめっきの原理

最初に、ニッケルめっきの原理について説明していきます。
ニッケルめっきを行う際は、ニッケルイオンを含んだめっき液に、金属ニッケルを陽極、被めっき物を陰極に設定して直流電流を通します。陽極ニッケルは溶解してニッケルイオンになり、陰極ではニッケルイオンが電子をもらって金属ニッケルの皮膜が形成されることにより析出されます。

ニッケルめっきの原理

ニッケルめっきの特徴

金属としてのニッケルは色調や強度、強磁性などはに似ていますが、のように錆びることは比較的なく、高耐食性を持っています。そのことから、ニッケルめっきには次のような5つの特徴があります。

・光沢がある
厳密にいうとニッケルめっきには、光沢ニッケルめっき半光沢ニッケルめっき無光沢ニッケルめっきといった3種類があります。

しかし、主にニッケルめっきと呼ばれているものは、光沢ニッケルめっきです。光沢ニッケルめっきは、表面に鏡面のような光沢をもち、見た目もよくなります。光沢ニッケルめっきの用途は、ドアノブや自動車用ホイルなど人目につく場所に適しています。見た目の美しさが求められている場合によく使用されます。
レベリング作用があり表面を平滑にすることができる
ニッケルめっきでは、通電することにより素材の凹凸などをレベリング作用があり表面を平滑化させることができます。

例えば、めっき前の素材の状態があまりよくない場合には、ニッケルめっきを厚くすることで、表面の凹凸を平滑化させることもあります。めっき前後のバフ研磨処理を行い、めっきしただけでは平滑化できない細かな素材の凹凸も綺麗にできます。
・硬度が高い
ニッケルめっきは、数あるめっきの中でも硬度が高い皮膜ができます。めっきの硬度はHV550程度です。温度の上昇と共に皮膜硬度が上昇するという特徴を持っています。

・変色しにくい
ニッケルめっきは、湿気等に強く変色しにくいという特徴もあります。そのため、美観性の向上を目的として利用されることが多いです。この記事の冒頭でも触れましたが、ニッケルめっきは変色しにくいというだけであり、変色しないという訳ではありません。空気に触れることで表面はわずかに変色することがあります。
・耐食性が高い
ニッケルめっきは、皮膜にを含んでいるものの、よりも耐食性が高いと言われています。しかしながら、高温多湿な環境下ではニッケルめっきでも腐食し、表面に鉄錆が発生することもあります。[2]
・各種データ
ニッケルめっきの特徴
硬度 光沢:HV550程度 無光沢Hv150~250
耐食性 リンを含有させると向上する
耐熱温度 400℃まで変色しない
耐酸性 溶解する
結晶構造 結晶質
導電性 あり
熱膨張 14~17μm/m℃
伸び ワット(硫酸ニッケル)浴 → 10~35%
スルファミン酸浴(塩化物含有) → 5〜28%
磁性 強磁性
放熱性 黒無電解ニッケルめっきがよい
摩擦係数 0.58 アームコ鉄球面(半径3.2mm)/平面,荷重2.7N,滑り速度0.05mm/s
出典:機械工学便覧
密着性 鉄系は良好、真鍮や銅やステンレスはニッケルストライクめっきが必要
アルミニウムは無電解ニッケルめっきが必要
溶接性 光沢ニッケルめっきでは不向きなので無電解ニッケルめっきに変更した方がよい
内部応力 ワット浴(硫酸ニッケル)は引張応力を持つ。
スルファミン酸浴(塩化物含有)は、引張から圧縮まで調整可能。
めっき厚を薄くすることが好ましい。
残留応力 ワット(硫酸ニッケル)浴 → 12kg/mm2
スルファミン酸浴(塩化物含有) → 0.4~0.6kg/mm2
応力緩和 膜厚の薄膜化を検討する(応力はめっき膜厚が厚くなるほど大きくなる)
熱膨張率 (25℃) 13.4 µm/(m·K)
半田濡れ性 半光沢ニッケルが良い
電気抵抗 -195℃: 0.55 100℃:10.3 体積抵抗(μΩcm)
電気抵抗率 (20℃)6.93(nΩ・m)
透磁率 1.26×10−4 - 7.54×10−4  μ [H/m]
熱伝導率 90.9W/(m・k)
輻射率(放射率) 0.25~0.85(λ=1.55μm)
ヤング率 200GPa
導電率 24.2(IACS%)
水素脆性 発生する
化学式 Ni2 + 2e- → Ni
レベリング 光沢材を使用することで、小さな凸凹を埋め、表面を平滑化する
接触抵抗 約8~9μΩ/cm(ワット浴)
比重 8.90g/㎤
融点 1455℃
強度 皮膜強度は1038Hv。薬品に強い。色調も良く変色しにくい

ニッケルめっきのメリット

ニッケルめっきのメリットは、次の5つです。

・下地にバフ研磨など使用せずに光沢を出すことが可能
ニッケルめっきであれば、バフ研磨することなく表面に光沢を持たせることができます。
一般的なめっきでは、表面に光沢を出す場合は素材に対して事前にバフ研磨をしなくてはなりませんのでその分の加工コストが必要です。研磨分の加工コストがかかることを考えると、ニッケルめっきは加工コストを抑えつつ光沢を出せるというメリットがあります。
・各種素材に対して直接密着性の良いめっきが出来る
ニッケルめっきは、様々な素材に対して直接密着性の良いめっきが出来ます。
前処理としてニッケルストライクめっきという処理を用いて、難材である、ステンレスや銅(真鍮)、鋳物素材に対しても良好なめっき皮膜を析出することが可能です。
・めっきを100μm厚以上と厚く処理が出来る
一般的なニッケルめっきの皮膜厚は、3~30μmです。しかし、めっき技術によって100μm厚以上で処理することもできます(実際に弊社での実績があります)。それ以上の膜厚も可能と思われますが、めっきを行う素材によって膜厚は変化します。
・処理温度が低いので製品の反りが発生しない
ニッケルめっきの場合、めっきを行う際の処理温度が低いため、めっきする素材への影響が少ないというメリットがあります。例えば熱に弱い素材に対してめっきを行う場合、処理温度によっては素材が変形してしまう可能性もあります。
ニッケルめっきでは、処理温度が低いことから素材に影響しないというだけでなく、素材の反りなどが起こらかったり、めっきが剥がれたりしないというメリットがあります。
・ニッケル金属を99.5%以上析出するので導電性も高い
通電することでめっきを行うニッケルめっきの場合、めっき皮膜にはニッケル金属が多く含まれます。めっき後の導電性が高いことから、電子部品などにも使うことができます。

ニッケルめっきのデメリット

ニッケルめっきには次の2つのデメリットがあります。

・電気を使用するめっきのためで皮膜均一性がない
電流効率が同じ場合、電流密度が高いところは皮膜が厚くなり、電流密度が低いところには薄くなります。そのため、同一製品でもめっき厚に違いができてしまいます。
特に鋭い角部には、めっきが厚くつきバリが出やすくなります。そのため、角部にRをつけられるものは出来るだけ大きくとり、隅部(特に形状部ツバのついた軸の根元等)には、できれば逃げをつくることが望ましいです。複雑な形状の場合には治具の製作が必要となります。
・皮膜自体にピンホールが多く素材自体から錆が発生してしまう
ニッケルめっきの場合、光沢剤を使うことにより水素が生じやすいので、ピンホール発生の原因となることがあります。ピンホールが発生することで、素材から錆が発生することもあります。

ニッケルめっき工程

一般的なニッケルめっきの工程を紹介します。

ニッケルめっきの工程

  • ニッケルめっき処理
脱脂
加温した水酸化ナトリウム水溶液に漬けて、表面についている油脂類などの汚れを完全に除去します。
電解脱脂
アルカリ脱脂液中の金属素材を陰極または陽極にして通電させることで酸素または水素ガスが発生します。生じたガスの力でさらに細かい汚れを取り除きます。
酸浸せき(酸活性)
表面にある不動態膜(酸化膜)を除去します。
ニッケルめっき
めっき液浸漬・めっき析出
乾燥
60度以下の低温

ちなみにニッケルめっきは、通電を行うことでめっきするため不導体へのめっきはできません。

真鍮ステンレスにニッケルめっきをする場合は次のような工程となります。

不導体へ無電解ニッケルめっきを行う場合

ニッケルめっきの種類とは

ニッケルめっきの種類

無光沢ニッケルめっき

無光沢ニッケルめっきは光沢剤や添加物が入っていないめっきです。

無光沢ニッケルめっきは、その名の通り光沢はありません。光沢剤などを使用していないため、レベリング性は低いですが、純ニッケルに近い特性を得ることが出来ます。また、応力緩和剤の硫黄を含まないため、電子部品に使用されることがあります。緻密な皮膜が得られますが、指紋がつきやすく、時間の経過とともに変色が起こります。

半光沢ニッケルめっき

半光沢ニッケルめっきは、硫黄を含まないレベリング作用がある添加剤を使用します。

光沢ニッケルほどピカピカではありませんが、硫黄を含まないため、はんだ付け製品にも利用されています。また、光沢ニッケルめっきの下地として耐食性を向上させることができます。

光沢ニッケルめっき

光沢ニッケルめっきは、ピカピカで光沢も良く、硬くて変色しにくいなどの優れた機能を持っています。ただし、皮膜の硬度が高く、クラックなどの不良が発生しやすい点に注意が必要です。

また、サッカリンなどの硫黄系の物質が含まれているため、めっきの中に硫黄がごく少量ですが含まれてしまいます。そのため、硫黄が含まれていないものよりは腐食しやすいという性質があります。

ニッケルめっき浴の種類

ニッケルめっきの際のめっき浴は、ワット浴とステンレスへのめっき下地に使用するウッド浴があります。めっき浴によってめっきに違いが出るため、用途に応じて適切なめっき浴を行わなくてはなりません。

ワット浴

もっとも一般的なニッケルめっき浴です。

構成成分は、金属イオンの供給源となる硫酸ニッケル、陽極溶解の促進や液の導電性向上のための塩化ニッケル、高電流部分の焦げを防ぐホウ酸を主成分とする、もっとも実用的で有名なめっき浴です。ワット浴からの析出皮膜は素材との密着性がよく、半光沢で耐食性があるため下地めっきとして用いられることが多いです。鏡面光沢の皮膜を作成するために光沢剤を添加します。

ウッド浴(ストライク浴)

強酸性で素材を活性化しながら行うめっき浴です。

ストライク浴とも呼ばれ、ニッケル金属イオンの供給源として塩化ニッケルを使用し、塩酸を添加し、浴を強酸性にしていることが大きな特徴の一つです。

被めっき物表面の酸化物を金属に還元しながらめっきするため、非常に密着性の良いめっきが可能となります。ステンレスなど表面が酸化膜で覆われている物質に対して非常に有効なめっきです。[3]

ニッケルめっきの用途

ニッケルめっきは機能性だけでなく、美観性も大きく向上します。ニッケルめっきは、次のような用途でよく使われています。

  • 鉄鋼、銅合金、ステンレスなど各種の素地金属上にニッケルめっき後、クロムめっきや金 めっきを施し、これらの素地金属を腐食から保護し、美観を与える
  • 化学工業、食品工業で使用する容器、貯蔵タンク、パイプなど内面に厚付けし、耐食性を向上させる

ニッケルめっきの事例

ニッケルめっきは強くて錆びにくいので、家庭用品・電化製品・OA機器・乗り物など、様々な場面で活躍しています。

  • バイク部品へのクロムめっきの下地めっき
  • 電子制御盤の開閉扉
  • 遠洋漁業に使用される厚めっき
  • 事例1 素材A7075材
    A7075材に10μm厚処理し、装飾クロムめっき前の下地処理
  • 事例2 半導体生産設備
    半導体生産設備部品に5μm厚以上処理し耐食性を付与
  • 事例3 自動車ライトカバー
    鉄素材の自動車ライトカバーに耐食性と光沢を付与

設計時の注意事項

ニッケルめっきは鋭い角部にはめっきが厚くつきバリが出やすくなります。隅部や複雑な形状には、めっきがつかないか、つきにくくなります。
そのため、角部にRをつけられるものは出来るだけ大きくとり、隅部(特に形状部ツバのついた軸の根元等)には、できれば逃げのあることが望ましいです。複雑な形状の場合には治具の製作が必要となります。

[4]

種類、等級及び記号

ニッケルめっきの種類、等級及び記号

素地金属 めっき金属の種類 等級 めっき
最小厚さμm
記号
鉄鋼 銅-ニッケルめっき 1級 3 Ep-Fe/Cu+Nib3又はEp-Fe/Cu+Nib[1]
2級 5 Ep-Fe/Cu+Nib5又はEp-Fe/Cu+Nib[2]
3級 10 Ep-Fe/Cu+Nib10又はEp-Fe/Cu+Nib[3]
4級 15 Ep-Fe/Cu+Nib15又はEp-Fe/Cu+Nib[4]
5級 20 Ep-Fe/Cu+Nib20又はEp-Fe/Cu+Nib[5]
銅及び銅合金 ニッケルめっき 1級 3 Ep-Cu/Ni3b又はEp-Cu/Nib[1]
2級 5 Ep-Cu/Ni5b又はEp-Cu/Nib[2]
3級 10 Ep-Cu/Ni10b又はEp-Cu/Nib[3]

ニッケルめっきに関連する英語表記

ニッケルめっき Nickel plating
光沢ニッケルめっき Glossy nickel plating
半光沢ニッケルめっき Semi-gloss nickel plating
無光沢ニッケルめっき Matte nickel plating
装飾用クロムめっき Decorative chrome plating
脱脂 Solvent degreasing
電解脱脂 Electrolytic degreasing
レベリング levelling

ニッケルめっきのまとめ

ニッケルは耐食性に優れた金属なので、ニッケルめっきはあらゆる用途で利用されます。
銅材や真鍮、ステンレスであればダイレクトにめっきできるため、装飾用や防食用の下地めっきとしても多用されています。

また、無光沢・半光沢・光沢ニッケルの種類があり、光沢剤などの添加剤を選択することで、外観のバリエーションを広げることができます。用途によって求められることが変わるため、どのめっきが最適なのか正確に判断しなくてはなりません。

脚注

  • [1]井水治博:現代めっき教本 日刊工業出版プロダクション
  • [2]全国鍍金材料組合連合会:めっき技術ガイド
  • [3]井水治博:現代めっき教本 日刊工業出版プロダクション
  • [4]全国鍍金工業組合連合会:製品設計/開発のための電気めっきガイド 第6版

この記事の解説者

代表取締役社長 清水栄次

三和メッキ工業株式会社
代表取締役社長 清水栄次

全国めっき技術コンクールにおいて厚生労働大臣賞、金賞など数多く受賞。めっき業界において始めてIS09001,14001,27001を独自で構築。その中から、めっき特許、並びに独自の技術を商標化。インターネットにて38000以上の取引実績。
めっきセカンドオピニオンによる他社のめっき不良を年間100件解決。

  • 2014年 神戸大学大学院経営学研究科 非常勤講師
  • 2020年 三重大学 非常勤講師

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