硬質アルマイト処理

硬質アルマイト処理は、低温の硫酸液などの酸性液で厚くアルマイト皮膜を生成する処理のことをいいます。硬質アルマイト処理を行って生成された皮膜は、高硬度(Hv450〜500)及び、耐摩耗性に優れた陽極酸化皮膜になることが特徴で、自動車や航空部品などに広く採用されている処理方法です。

硬質アルマイト処理とは

低温の硫酸液で厚い皮膜を生成する硬質アルマイト処理は、高硬度(Hv450〜500)でかつ耐摩耗性に優れた皮膜になることが特徴です。そのため、硬質アルマイト処理のことをハードアルマイトと呼ぶこともあります。

硬質アルマイト処理の原理は?

陽極酸化処理といわれ、電解を利用して電解液中の分子イオンに対して陽極で行わせる酸化反応をいいます。
アルミニウムを陽極として通電させることで、酸化されて陽イオンとなり、溶液中に溶解し発生した酸素と化合して、耐久性の高い酸化アルミニウムの皮膜が生成されます。
この電解処理をアルマイトといいます。

アルマイトの電源

[1]

アルミニウムを硫酸などの溶液中で電流を流すと、表面のアルミニウムが溶解(浸透)+同時に酸化皮膜が成長し、時間の経過と共にセルと呼ばれる立体構造を形成します。
基本構造は六角柱の集合体です。

  1. 空気中には自然酸化皮膜として、2nm程度の酸化皮膜があります。
  2. 電解液中でバリヤー層(酸化皮膜)が成長します。
  3. 硫酸イオン(シュウ酸イオンなど)が内部に入り、局部的に皮膜が硫酸アルミニウム(シュウ酸など)となって溶出し、表面に無数の孔(ポア)が発生します。
  4. 酸化反応と皮膜の溶出反応とが同時に進行し孔(ポア)が下がるので絶縁層を形成し始めます
  5. 絶縁体となり孔(ポア)の成長が止まります。酸化皮膜は、1/2とアルミ素材の浸透します。

アルマイト処理の皮膜構造

[2]

アルマイト処理の皮膜構造は、以下のようなハニカム構造です。

アルマイトの構造

硬質アルマイト処理の特徴

硬質アルマイト処理の特徴は主に5つあり、「硬度が高い」「皮膜を厚くできる」「耐摩耗性が向上し硬質クロムメッキと遜色ない摺動摩耗性が手に入る」「絶縁皮膜」であり抵抗値が10の12乗Ωから10の14乗Ωとなる」「破壊電圧」が高く、封孔処理したもので1000〜2000Vある」といったことが挙げられます。
中でも、硬度が高くなることで得られる摺動摩耗性については、摩耗性、滑り特性が求められる自動車部品等にとっては重要な要素です。通常のアルマイト処理よりも厚い皮膜が生成されるため、強度が増し耐久性が向上します。

硬質アルマイト処理のメリット

硬質アルマイト処理のメリットは次の3つです。

・硬度や耐摩耗性を上げることが出来る
硬質アルマイト処理は、硬度が高い(Hv450〜500)ため、自動車や機械など工業分野で広く使われています。また、処理後にバフ研磨が可能なので、光沢を求めたい製品などにも採用できます。
・膜厚を厚く処理出来る
硬質アルマイト処理は皮膜を厚くすることができ、その膜厚は素材にもよりますが30〜100µm厚まで可能です。硬度だけでなく膜厚も厚くできることにより、耐久性も向上します。
・潤滑性が向上する
硬質アルマイト処理は、テフロンを含浸したりバフ研磨をしたりできるため、潤滑性を向上させることも可能です。

硬質アルマイト処理のデメリット

硬質アルマイト処理のデメリットは次の3つがあります。

・皮膜がもろく、柔軟性がない
硬質アルマイト処理は、硬度が高く摩耗性に優れている反面、皮膜がもろく柔軟性に欠けます。アルマイト処理後に曲げ加工などを行うと皮膜が剥がれやすくなるため、処理後の加工や用途などが限定されてしまいます。
・耐熱性がない
耐熱性がなく、100℃を超える環境ではクラックが生じてしまいます。クラックが生じてしまうと、素材そのものにも影響を与える恐れがあります。従って、高温での環境では使用できません。
・アルカリ性に溶解する
硬質アルマイト処理は、アルカリ性に弱くメッキ皮膜が溶解してしまいます。

メッキとの違いは?

硬質アルマイト処理は、通常のメッキとは皮膜生成の方法が異なります。
硬質アルマイト処理の場合は、酸化皮膜を生成するのに対して、メッキの場合はメッキ皮膜を生成します。また膜厚にも違いがあり、通常のメッキと比べ厚い皮膜を生成できるのが硬質アルマイト処理の特徴です。
また、生成の方法に関しても電流の流し方が逆になったり処理工程などに違いがあります。

例えば、10μm厚の処理をする場合、メッキは10μm増加します。

メッキ膜厚増加

一方アルマイト加工(処理)は、皮膜の半分がアルミニウムの素地に浸透し残りの半分がアルミニウムから形成されるため、下へ浸透した皮膜の分、元のアルミニウム部分の厚みが変わります。

アルマイト膜厚増加

硬質アルマイト処理の工程

硬質アルマイト処理が完成するまでの一般的な工程を図でまとめました。

硬質アルマイト工程表

  • アルマイト

硬質アルマイト処理の用途

硬質アルマイト処理が行われるのは、主に自動車や航空機などの工業分野で、硬度や摩耗性だけでなく潤滑性が求められる分野で幅広く使われています。自動車や航空機以外には、シャフトやロールなどの摺動性が必要な部品に対しても硬質アルマイト処理が好まれます。

硬質アルマイト処理の事例

  • 硬質アルマイト事例
    【事例1】
    自動車外装部品に硬質アルマイト処理を20μm処理し耐摩耗性を付与
  • 硬質アルマイト事例
    【事例2】
    半導体生産機械の部品に硬質アルマイト処理を30μm処理し硬度と耐摩耗性を付与

種類、等級及び記号

皮膜厚さの等級

等級 平均皮膜厚さμm
AA3 3.0以上
AA5 5.0以上
AA6 6.0以上
AA10 10.0以上
AA15 15.0以上
AA20 20.0以上
AA25 25.0以上

皮膜厚さの等級と主な用途例

皮膜厚さの等級 主な用途例
AA3 反射板、家電部品(内部)など
AA5
AA6
AA10
台所用品、日用品、家電部品、装飾品、家具部材、車両内装、建築部材(屋内)など
AA15
AA20
AA25
台所用品、車両外装、土木・建築用部材(屋外)、船舶用品など

耐食性

皮膜の耐食性は、各種の環境にたれる特性で、用途によっては酸性、アルカリ性及び塩水雰囲気などの環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は下記の表1または表2に適合しなければならない。

表1 アルカリの耐食性

等級 アルカリ滴下試験又は起電力式耐アルカリ試験
A種 B種
AA3 - -
AA5 - -
AA6 30以上 90以上
AA10 50以上 150以上
AA15 75以上 225以上
AA20 100以上 300以上
AA25 125以上 375以上

表2 キャス耐食性

等級 キャス試験
試験時間 h レイティングナンバRN
AA3 - -
AA5
AA6 8 9以上
AA10 16
AA15 32
AA20 56
AA25 72

耐摩耗性

皮膜の耐摩耗性は、摩耗環境に耐える特性であり、用途によっては摩耗性物質の衝突による摩耗、摺動摩耗及び転がり摩擦などの摩耗環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は表3のいずれかに適合しなければならない。なお、噴射摩耗試験の耐摩耗性は、通電判定法によることとし、素地が露出するまでの摩耗時間[W1(T)]で表す。

表3

等級 砂落とし摩耗試験s 噴射摩耗試験s 往復運動平面摩耗試験 ds/μm
AA3 - - -
AA5 30以上
AA6 150以上
AA10 500以上 24以上
AA15 750以上 36以上
AA20 1000以上 48以上
AA25 1250以上 60以上

硬質アルマイト処理の英語表記

硬質アルマイト Hard anodized
アルマイト anodized aluminum
陽極酸化皮膜 Anodized film
陽極酸化処理 anodizing
酸化アルミニウム Aluminum oxide
硫酸 sulfuric acid
シュウ酸 oxalic acid
分子 molecule
イオン ion
バリヤー層 barrier layer
孔(ポア) hole
ハニカム honeycomb
絶縁皮膜 insulating film
破壊電圧 breakdown voltage
バフ研磨 Buffing
メッキ plating
アルカリ性 alkalinity
電流 current

硬質アルマイト処理のまとめ

硬質アルマイト処理は、品質の性能としてさまざまな優れた特性がありますが、中でも重要なのは、皮膜厚さ、皮膜硬さおよび耐摩耗性です。
その他、単位面積当たりの皮膜質量、耐食性、潤滑性、絶縁耐力等がありますが、反面、皮膜がもろいといったデメリットもあります。ですからメッキに求めたい性能や素材の特性を理解した上で硬質アルマイト処理を選択しなくてはなりません。

この記事の解説者

代表取締役社長 清水栄次

三和メッキ工業株式会社
代表取締役社長 清水栄次

全国めっき技術コンクールにおいて厚生労働大臣賞、金賞など数多く受賞。めっき業界において始めてIS09001,14001,27001を独自で構築。その中から、めっき特許、並びに独自の技術を商標化。インターネットにて380001以上の取引実績。
めっきセカンドオピニオンによる他社のめっき不良を年間100件解決。

  • 2014年 神戸大学大学院経営学研究科 非常勤講師
  • 2020年 三重大学 非常勤講師

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